金庫開錠 (平成の時代のお話です。)

ダイヤル式の金庫。

おいどんの家にもあるのだが、開けることはまずない。

なぜなら、中にあるものはせいぜい、オヤジの実家の登記簿関係の書類。

開ける必要性が希薄になり、金庫自身の存在すら忘れてしまいそうだ。

 

ダイヤル式の金庫の開錠は、なかなかうまくいかず、何度もトライしてようやく開いたという、記憶が残っている。

 

わが社の若社長様もどうやら苦手らしい。

 

事務員さんが帰った後の見積書などの押印は、

「私が事務所にいれば、言ってください。押印しますよ。」と社長。

 

金庫開錠をお願いすると、そそくさと金庫へ。

「ちょっと待ってくださいよ。」と金庫のある奥まった部屋からの声。

カチャカチャ ダイヤルを回してる、小さな音。

 

再度、

「もうちょっと待ってくださいよ。」と社長。

なかなか開錠できないらしい

 

「カチャ。」金庫の開く音です。

 

「開きました!」とちょっと嬉しそうな顔。

部屋から出てこられた社長は、大体 汗だくです。

いつもこんな感じで、金庫の開錠が行われているのでした。

 

ある日のこと、夕方のこと。

帰社が遅くなったので、「見積もりの押印は明日になるな。」と思っていたところ、事務所で社長の姿を見かけ、お頼みする。

いつもエネルギッシュな若社長。

「了解ですよ。今日は一発で開けて見せます。見ておいてください。」と元気な声。

 

金庫のある部屋から、カチャカチャ。

 

「カチャ。」

 

「やった。今日はほんとに一発で開きましたよ。」と嬉しそうな社長。

その顔を見た瞬間、おいどん これは何か場を盛り上げる言葉を発しなければと思い。

思い浮かんだのは、

 「さすが、平成の鼠小僧!」だったのですが。

おいどんの口から出たセリフは、

 

「さすが、平成のねずみ男!」

 

少しの間をおいて社長様。

「鼠小僧ならまだしも、ねずみ男はまずいでしょ。失敬な!」とちょっと苦笑い。

 

そのあと、社印を押す社長の口から洩れた小さな声を、おいどんは聞き漏らさなかった

ど。

 

「ビビビのビー。」

 

 

 by

目は悪いが、耳は地獄耳の

たたかう現場監督