悪魔のチャリンコ

おいどんが大学に通っていた頃のお話です。

いつも6・7人の仲間と一緒につるんでいました。

ある時、その友人の一人、トモちゃんの左手にグルグルと包帯がまかれているのを発見。

「どうしたん、ケガでもしたん?」とおいどん。

「そうじゃ。自転車が原因でケガしたんよ。」

「ゲッ。 それ俺と交換したやつ?」

「そーよ。」ちょっと怒り気味のトモちゃん。

彼が今乗っている自転車は、もともとおいどんの物で、中学生の時買ってもらったものなのです。

少しブレーキの利きが悪いのですが、まだまだ車体はしっかりしています。

通学で自転車が欲しかったトモちゃんと、テニスラケットが欲しかったおいどん。

交換したのはつい最近のことです。

どうしてけがをしたのかと聞いてみると、彼が帰宅途中、細い路地を通っているとき、車が急に飛び出してきたらしい。

この自転車のブレーキじゃ止まらないと判断したトモちゃんは、ブロック塀に左手を突き出し、その摩擦抵抗で自転車を止めたのだそうだ。

そのせいで、左手の手のひらはすさまじい擦り傷になってしまったとのこと・・・。

(まさにハンドブレーキ、捨て身ですな・・・。)

「とんでもない自転車とラケットを交換してしまった・・。」と嘆くトモちゃん。

「けがは大丈夫?」と聞きながら、彼のハンドブレーキの姿を想像してみて、一瞬笑いがこみ上げそうになった おいどん。

「いかん、いかん。」と、つまらぬことを考えてしまう自分に喝ですね。

ケガの為、テニス部の練習に2週間ほど支障がでたらしい。

 

その事件から、数か月後の雨の日のこと・・。

ゼミの部屋に入ってきたトモちゃんの姿を見て、みんなビックリ。

服もかばんもびしょびしょに濡れており、ズボンの膝の部分は血がにじんでいます。

持っている傘は、少しひん曲がって、穴が開いているように見えました。

「またあの自転車のせいじゃ!」近づいてくるなり、恨めしそうな言葉。

その日は朝から雨のため、傘を手にもって、自転車をこいでいたらしい。

学校近くの交差点で、ビスが緩んだせいか、ブレーキレバーがハンドルから取れてしまい、「あっ。」と思った瞬間、レバーがブレーキのスポークにからまり、いきなり前輪がロック。

後輪が浮き上がります。

ジャックナイフ状態ですな・・・・。

トモちゃん、つんのめって、水たまりにひっくり転げたとのこと。

一瞬、傘を持ったまま、宙を飛んだらしい。

交差点で大勢の注目を集め、逃げるようにその場を立ち去ったトモちゃん。

「もうこの自転車には乗らん!」

「もう、嫌じゃ。」と叫ぶトモちゃん。

傘を持ったまま吹っ飛ぶトモちゃんの姿が、またまた、頭の中に浮かびあがり、不謹慎な笑いがこみ上げそうになる。

しかし、目の前のトモちゃんの姿が可哀そうすぎて、

「わかった、ラケット返すわ。」と おいどんついしゃべってしまった。

 

翌日から、その悪魔のチャリンコは、またおいどんのもとへ帰ってきたのである。

 

このチャリンコを乗りこなせることができるのは、おいどんしかいないのだろうか・・・。

 

by

卒業する時に

トモちゃんの後輩に譲った、そのチャリンコ

トラブルは特になかったと聞き、安心した

たたかう現場監督