笑劇の職人さん 2
これはおいどんが東京で仕事をしていた頃(もう三十年近く前)のお話です。
ワンルームマンションの現場もほぼ終わりに近づき、外構工事(建物の外回りの仕事です。)を残すだけとなりました。
その日は駐輪場の土間のコンクリート打設。
規模は小さく2m*7m程度の大きさです。
生コンの打設は業者さんの活躍もあって、10時前には打ち終わりました。
冬なので、この時間に打設完了だと、夕方6時くらいには左官さんのコンクリートのこて押さえ(仕上げ)が終わるかなーと、ぼんやり思っていました。
その日はお昼過ぎても、思っていた以上に気温が上がらず、ひょっとすると19時過ぎるかもしれないという予感。
16時過ぎましたが、まだコンクリートの硬化が遅いため、左官さんは待機中です。
ようやく17時過ぎに1度目の金鏝(かなごて)押さえを始めることができました。
こりゃー今日は少し遅くなるかも・・・、と思いつつ事務所で書類や図面作成。
遅くなりそうなので投光器を設置して、準備はOK。
18時過ぎ、左官さんがどたばたと2階の事務所に上がってきます。
「監督さん、お願いがあるんじゃ・・。」
(おいどん:何のお願いじゃ?)
「ここに金鏝がある、俺は帰るんで、これであと一回コンクリートを押さえといてくれ!」
(おいどん:おいおい、それは仕事放棄だろう。なぜ帰るのじゃ? しかも、命令口調で!)
「鏝はあげるよ。」と言い、引き留める間もなく帰っていきました。
(仕事道具の鏝も要らないのかよ?)
突然バトンを渡されたおいどん、ビックリです。
今まで仕事してきたけど、こんな事初めてでした。
「ミーがやるのかよ。」とひとり言。
しょうがないので、左官さんの鏝をもって現場に向かう おいどん。
辺りはもう真っ暗、駐輪場の場所だけがまるでスポットライトを浴びたように、浮かびあがって見えます。
コンクリートは程よい硬さになっていました。
投光器のライトが、一人ぽっちの影を作る。(レイニーブルーか?)
シャーッ、シャーッとコンクリートを押さえる金鏝の音が、静かな住宅街に響きます。
普段やらない中腰の体勢での作業のため、腰は痛いし足の先は冷たい。
ようやく終わったのは夜の8時過ぎ。
「左官め、勝手なこと言いやがって・・。」と毒を含んだ言葉がぽつり。
(まだまだ修行が足りませんな。)
「ええ仕事させてもらったわ。これにて撤収。」と最後につぶやき、さみしく片づけをするおいどんでした。
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冬場のコンクリート打設は
左官さんの仕上げが翌日になることも多かったが
それも今は懐かしい思い出となった
たたかう現場監督